昔と比べ虫歯や歯周病の数はどのように変化しているのでしょうか。厚生労働省が行った歯科疾患実態調査※1では、1993年から比較すると5歳以上から35歳未満まででは、虫歯の数が大きく減少しています。
しかし35歳から65歳未満では、虫歯の数に大きな変化はなく、65歳以上になると虫歯の数が増加しています。また、歯周病に関しては、30歳から60歳にかけて歯周病患者が増加しており、30歳以降になると歯石の付着や歯肉からの出血などなんらかの症状が見られます。
更に、歯が抜ける原因について調べてみると、約4割は歯周病、約3割は虫歯が占めています。そのことから健康な歯を長持ちさせるためには、成人以降の虫歯と歯周病の予防がとても大切だということが分かります。
では、具体的にこれらの予防はいつから始め、どのようなことを行えばよいのでしょうか。今回は、予防歯科の開始時期や予防方法について説明したいと思います。
引用元:1令和4年歯科疾患実態調査
予防歯科は、一般的に乳歯がはえ始めた時点で開始します。しかし、先述のように年齢を重ねるごとに虫歯や歯周病のリスクが増加します。そのため成人以降は、なるべく早く予防歯科を始めることが大切です。
0歳から始める虫歯予防Q.予防歯科はいつから始めたらいいの?
A.予防歯科は、歯が生え始める早い段階から始めると良いでしょう。
通常、乳歯の生え始めはおよそ生後6ヶ月です。永久歯の生え始めは、6歳前後です。
歯科医院に通う頻度としては年に2回〜4回、歯科検診とクリーニングが推奨されています。
・・・詳しくは動画をご覧ください。
虫歯や歯周病の具体的な予防方法を説明する前にこれらの疾患をしっかりと理解する必要があります。まずは、虫歯と歯周病の原因と症状について説明します。
お口の中では、脱灰(だっかい)と再石灰化(さいせっかいか)という現象が繰り返されています。
脱灰は、お口の中に存在する細菌が生成する酸によって、歯の表面のエナメル質が溶ける現象です。これにより歯の主要な構成要素であるカルシウムやリンが歯から溶け出してしまいます。
一方、再石灰化は、唾液中に含まれるカルシウムやリンなどが、歯の表面に取り込まれる過程を指します。健康なお口の中の状態では、脱灰と再石灰化のバランスが維持されています。しかし、甘い食べ物の摂り過ぎやお口の中の清掃状態が悪くなることで、脱灰と再石灰化のバランスが崩れてしまうことがあります。
その結果、歯の表面が溶けてしまい、最終的に歯に穴が開き、虫歯になります。
虫歯の原因、原因菌次に虫歯を進行状態に分けて症状をまとめてみました。
初期の虫歯は、専門用語でCO(シーオー)と呼ばれ、歯に穴が開きかけている状態です。COでは、基本的に痛みを感じることはありませんが、歯の表面は白く変色し、わずかなザラザラ感を感じることがあります。
初期の虫歯がエナメル質まで進行した状態を専門用語でC1(シーワン)と呼びます。C1では、エナメル質に小さな穴が開いており、黒ずみが見られることがあります。この段階では、外からの刺激が神経に達しないため、痛みがでることは基本的にありません。
虫歯が象牙質まで進行した状態を専門用語でC2(シーツー)と呼びます。C2では、虫歯がエナメル質の下層にある象牙質に進行しています。冷たい食べ物や飲み物を摂取するとしみるような痛みを感じることがあります。
虫歯が歯の神経まで進行した状態を専門用語でC3(シースリー)と呼びます。C3では、歯の神経が炎症を起こし、鋭い痛みが生じることがあります。この痛みは日常生活に影響を及ぼし、眠ることさえ難しくなることがあります。
虫歯が進行し、歯の根だけが残っている状態をC4(シーフォー)と呼びます。C4では、歯の神経が壊死し、歯の根っこの先に膿がたまることがあります。物を噛むたびに激しい痛みを感じ、歯ぐきから膿が出ることもあります。
虫歯の症状とリスク歯周病は、歯ぐきに炎症が起き、歯を支える歯槽骨が溶けることで起きる疾患です。歯周病の原因には、お口の環境によるものと習慣や全身状態によるものがあります。お口の中の環境によるものとして、歯石の付着や被せ物、詰め物の不適合が考えられます。
習慣によるものとしては、喫煙や食習慣などが挙げられます。全身状態によるものとしては、糖尿病、妊娠によるホルモンバランスの乱れなどがあります。
歯周病の原因次に歯周病の症状について説明したいと思います。
歯ぐきに炎症があると、歯を磨いたときに出血します。また、炎症が起こっているため歯ぐきが赤く腫れます。
歯周病が進行すると歯を支える骨が溶けるため、歯がグラグラと動くことがあります。この状態になると歯を抜く場合があります。
歯周病を引き起こす細菌は、独特の臭いのする物質を産生します。この臭いが口臭の原因になることがあります。
歯周病の症状ここまでで虫歯と歯周病の原因と症状について説明しました。この項目では、ご自身で行う予防方法と歯科医院で行われる予防方法に分けて説明したいと思います。
虫歯や歯周病を予防するためには、日常における口腔ケアや習慣の改善がとても重要です。以下では、ご自身で行うことができる予防方法について説明します。
歯の磨き方には大きく分けてスクラビング法とバス法があります。スクラビング法は、歯に対して垂直にブラシを当て、小刻みに動かすことで歯の表面を磨く清掃方法です。
一方でバス法は、ブラシを歯に対して45度に当てることで歯と歯ぐきの間を磨く清掃方法です。
これらの清掃方法を組み合わせることで、磨き残しが減少します。
歯と歯の間や奥歯など比較的磨き残しが多い箇所に対しては、歯間ブラシやタフトブラシの使用がおすすめです。
歯間ブラシを使用する際は、歯ぐきを傷つけないように歯間部にゆっくり挿入し、前後に2〜3回動かして汚れを取り除きます。
タフトブラシを使用する際は、歯と歯ぐきの境目にブラシの先端を当て、小刻みに動かすことで汚れを取り除きます。
間食回数が多いとプラークがお口の中に溜まりやすくなり、虫歯や歯周病の原因になります。糖分を多く含んだ食べ物や飲み物を飲食する習慣がある場合もプラークが増加する原因になります。
可能な限り糖分を含んだ飲食は控えましょう。
唾液には、お口の中を綺麗にしたり、細菌の増加を抑制したりする作用があります。食事の際によく噛むことで唾液腺が刺激され、唾液の分泌量が増加します。その結果、虫歯や歯周病を予防することができます。
次に歯科医院で行われている虫歯や歯周病の予防方法について説明します。
歯に歯石が付着するとプラークが歯に付着しやすくなります。また、歯石はブラッシングで取り除くことができないため、定期的に歯科医院に通院し除去する必要があります。
歯の表面に付着した着色などを専用の機械を用いて取り除く処置をPMTCと言います。PMTCは、フッ素を多く含有したペーストを用いて行うため、虫歯を予防することができます。
ブラッシング指導では、まず、担当衛生士がお口の中の磨き残しやブラッシング方法を観察します。その後、磨き残しが少なくなるように歯の磨き方や歯間ブラシの使用方法などを説明します。
クリーニング 虫歯の予防 歯周病の予防今回は、予防歯科を始める時期と予防方法について説明しました。成人になった後も、虫歯や歯周病のリスクはあります。そのため、成人以降も予防する必要があります。
予防歯科は大きく分けてご自身で行うセルフケアと習慣の改善、歯科医院で行われる専門的な口腔ケアに分けられます。
予防歯科をしっかりと行い、健康な歯を保ちましょう。