歯の健康を維持するためにますます注目されているのが予防歯科です。
予防歯科は虫歯や歯周病など口内の疾患を予防するだけでなく、口臭の改善と予防にも効果があります。今回は、予防歯科治療がどのように口臭対策に対して有効であるか、その治療内容について紹介します。
予防歯科とは、虫歯や歯周病など口腔内の病気が進行してから治療を行う従来の考え方とは異なり、口腔内の疾患を未然に防止することに重点を置いた診療のことです。
スウェーデンを中心とする北欧から広まったものですが、現在、欧米諸国では6割以上の人が歯の定期的なメンテナンスを行っており、“予防歯科は当たり前のこと”という認識になっています。
日本での予防歯科の認知度はまだ低く、取り組んでいる人も少ないのが現状です。
予防歯科の先進国であるスウェーデンでは80代の平均残存歯数は20本を超えているのに対し、80代の日本人の平均残存歯数は5本という調査結果からも分かるように予防歯科への取り組みは歯の健康に非常に大きく影響しています。
近年「歯の健康を守るためには予防が大事」、「歯の健康は全身の健康に大きく影響する」という考えが日本でも少しずつ広まってきており、予防歯科への取り組みを始めた歯科も増えているようです。
予防歯科がどのような点で口臭対策に効果的なのかを考えるためにも、まずは口臭の原因について紹介します。口臭の原因は大きく分けて「生理的要因」と「物理的要因」、「病的要因」の3つです。
生理的要因で起こる口臭は、起床時や空腹時、緊張してストレスを感じている時などに発生します。
さらに女性の場合はホルモンバランスが乱れることで生理時に口臭が発生しやすくなるようです。これには口腔内の自浄作用がある唾液の量が大きく関係しています。
寝ていてずっと口を動かしていない状態が続いていた直後の起床時や空腹や緊張のためにストレスを感じている時、女性の場合ホルモンバランスの状態が良くない時など、口腔内に唾液が少ない状態の時は細菌による臭いが発生するのです。
生理的な要因による口臭は一時的なもので、歯磨きや飲食すると唾液が通常通り分泌されるため、口臭は改善されます。
口臭の物理的要因は、ニンニクやニラなど臭いのきつい食べ物によるもの、アルコールやタバコによるもの、口の中や歯間に残った食べかすの腐敗によるものなどです。
舌の表面には乳頭と呼ばれる細かい突起物がありますが、口の中が不衛生になるとこの乳頭に「舌苔」と呼ばれる白いコケが沈着します。「舌苔」には臭いを発する細菌が多く存在し、これも口臭の要因の一つです。
口臭の病的な要因は二つあります。一つは口の中の病気によるもの、もう一つは口の中以外の病気によるものです。
種別 | 病名 | 口臭の原因 |
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口腔内の病気 | 虫歯 | 虫歯菌の出す臭い 虫歯菌に浸食された神経が腐敗した臭い |
歯周病 | 歯周病原菌(嫌気性菌)が代謝する過程で発生する硫化水素やメチルメルカプタンの臭い 歯肉の炎症によって生じる膿の臭い |
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口腔がん | 口腔内が癌細胞に浸食されてできる腫瘍やただれによって生じる膿の臭い | |
口腔外の病気 | 副鼻腔炎・扁桃腺炎 | 副鼻腔や咽頭が細菌によって炎症し、生じる膿の臭い |
糖尿病 | 糖尿病によって体内で大量に生成されたアセトン(ケトン体)の臭い | |
胃炎・胃潰瘍 | 胃の不調で消化不良になった食物が胃の中で腐敗し、発生したガスがげっぷとして口腔内に出てきたときの臭い |
口臭の病的要因の中でも、口腔外の病気はかなり重症化しなければ口臭の元にはなりにくく、口臭の主な病的要因と考えられるのは、虫歯または歯周病です。
予防歯科の主な治療内容としては
①口腔内の状況の確認と日常的メンテナンスの指導
➁バイオフィルムや歯垢・歯石の除去
③歯の表面へのフッ素塗布
があります。これらの治療は全て口臭対策にも有効です。
予防歯科では歯科衛生士が患者さまの口腔内を観察し、口臭の原因にもなる歯垢や歯石の状態をチェックします。
歯垢は食べかすが歯の表面につき、細菌が繁殖してできるものですが、細菌が食べかすを分解する過程で硫化水素やメチルメルカプタンが発生します。
このガスが口臭の元です。口臭は自分では気づきにくく、また他人も指摘しづらいものですが、歯科衛生士による口腔内チェックで歯垢や、歯垢が石灰化した歯石がどれくらいあるのか認識し、自身の口臭の有無の可能性を推測することができます。
予防歯科の診療は、口腔内の状況確認だけではありません。患者さまにいつも通りに歯磨きをしてもらった後、染め出し液を使って歯垢を目視できる状態にします。
日常的な歯磨きでは、どれほど歯垢が除去できていないのかをご自身で認識することができます。その後、歯垢をできるだけ除去するための正しい歯磨き方法を歯科衛生士が指導します。
毎日の歯磨きによって臭いの原因を取り除くことができるようになるため、歯科衛生士による歯磨き指導は口臭対策に非常に効果的です。。
バイオフィルムとは口腔内で複数の微生物が集まって作り出す粘性の膜のようなものです。口腔内に常に存在するバクテリアが結び付き、歯の表面に付着することで形成されます。バイオフィルムは放置すると口腔内で成長し、口臭の原因となる歯垢になるため、予防歯科で行う口腔内のバイオフィルム除去は口臭対策にも有効です。
歯と歯の間の隙間や歯ぐきと歯が接触する部分は歯ブラシが届きにくく、完全にバイオフィルムを取り除くことはできません。予防歯科では歯磨きでは除去できないバイオフィルムを、専用のカップやパウダーなどで除去していきます。
バイオフィルムが成長して歯垢になって石灰化し、歯周病の原因菌の温床にも成り得る歯石に変化するまでの時間はわずか2~3日です。
歯石に変化してしまうと歯ブラシでは除去できません。予防歯科ではスケーラーと呼ばれる専用の器具や、スイスに本社を置くEMS Dentalが開発した「エアフロープロファイル」などを利用した超音波によって歯石を除去していきます。
予防歯科の治療によって、口臭の原因の一つである歯周病にもかかりにくくなるのです。
超音波で歯の汚れを落とした場合、歯の表面は目には見えないほど細かい傷が付いた状態になります。
この状態は薬剤が一番歯に浸透しやすい状態であり、超音波での歯垢除去後すぐに表面を綺麗に磨いてフッ素を塗布することは、虫歯予防に非常に効果的です。フッ素には歯を強くする効果や虫歯菌による酸の生成を抑制する効果、酸によって溶けかけた歯の表面にあるエナメル層を修復する効果があります。
汚れが除去されて綺麗になった歯の表面にフッ素を塗布することは、虫歯や歯の汚れによる口腔内の疾患予防に非常に有効であり、同時に虫歯や歯の汚れによる口臭対策にも有効です。
予防歯科の診療内容が口臭対策にも効果的であることを紹介しました。欧米に比べると日本では予防歯科に対する意識がまだ低いですが、最近では少しずつ予防歯科を治療メニューに設定している歯科医院が増えてきています。
口腔内に痛みや異変がないのに、予防のために歯科医院に行くことに抵抗がある人もまだ多いようです。しかし症状が進んでから通院した場合、治療にかかる費用や時間が多くかかることはもちろん、治療が終わるまで歯の病気による口臭にも悩まなければならないかもしれません。
口臭はなかなか自覚しにくいものですが、予防歯科で歯の定期検診とメンテナンスを行えば口臭に対するチェックも可能です。
口臭対策のためにも予防歯科に積極的に取り組むことをおすすめします。